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藤原定家「近代秀歌」
定家は相当面白い人のようだ。とにかく精力的に字を書いている。
日記「明月記」には漢文調で、日々の暮らしを書き綴っており仕事ぶりがよく窺える。
書写本だけでも世に知られている「土佐日記」「更級日記」「源氏物語」「古今和歌集」等々、
数え上げればきりがない。厖大な量である。これだけ書けば上手くなるもの当然というものだが、
そうではないのもまた面白い。
自分でも悪筆といっているようだが、後の評価もそのようなものが見られる。
小松茂美氏監修・世界文化社の「書体別 日本の書」は書を美しく見せている素晴らしい本だが、
解説者の詩人北村太郎氏により下手な書であると紹介されている。
・・・また歌が、平凡に見えて、こわい歌である。書もそのようであった。と結ばれていた。

定家が悪筆だといっているのは、公家的な上手ではないといっているのであろう。
「明月記」のようすは、横画を強調して行間の粗密を際だたせており、
構図の妙を感じさせる。この表現法は茶道でも有名な遠州流の小堀遠州に受け継がれていく。
余白を際だたせる表現は時を超える美の感性を感じさせる。
一方「土佐日記」「更級日記」「近代秀歌」などは全体にばらっとまき散らした、
単調な上下動を感じさせる書きぶりは、これはこれで、緊張感のある理知的な魅力を感じる。

「近代秀歌」は定家が実朝に与えた歌論書だが、その書を見て読んだことがあった。
吉本隆明の「五十度の講演」に出てくる「実朝論」の中で、定家が実朝に指導した本歌取りのことや、
実朝の歌についての話を聞いて、違う見方に気づかされた。
一つの書を見るにもさまざまな見方があり、私の見方は造形に主眼があったことに、
最近しきりに反省させられている。
稜線がゆるやかな審美眼があってもいいのでなないかと、思ったりもしている。

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中学生の樋口芙美ちゃんの作品。

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これを書いたときは書くだけだったが、今は読むことを大切に学ばせている。
by mteisi | 2009-04-02 15:24 | 書について


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