はつせにもうづるごとにやどりける人の家にひさしく宿らで、ほどへてのちにいたりければ、「かの家のあるじ、「かくさだかになむやどりはある」といいだして侍りければ、そこにたてりけむめの花ををりてよめる
つらゆき
人はいさ 心もしらず ふるさとは
花ぞ昔の かににほいける
初瀬観音に参詣するたべに宿っていた人に家に、長らく宿泊しないでしばらく時がたって後に行ったところ、その家の主人が「このようにちゃんと宿はあるのに」いおいったので、そこに植えてあった梅の花を折とってよんだ歌。
さどうですか、あなたは私のこともご存じなくそのようにおっしゃるが、昔なじみのこの宿では、梅の花だけが私の心をよく知っていて、昔とかわらぬ香りで私を迎えてくれることであるよ。