秋日於長王宅宴新羅客
従三位中納言兼催造宮長官安倍朝臣広庭
山牖臨幽谷 松林対晩流 宴庭招遠使 離席開文遊
蝉息涼風暮 雁飛明月秋 傾斯浮菊酒 願慰転蓬憂
秋日長王の宅において新羅の客を宴す
山牖幽谷に臨み 松林晩流に対す 宴庭遠使を招き 離席して文遊を開く
蝉は息ふ涼風の暮 雁は飛ぶ明月の秋 この浮菊の酒を傾けて 願はくは転蓬の憂ひを慰めん
山家の格子窓は奥深い谷川に面し、松林は夕暮れの流れに並び立つ。酒宴に新羅よりの使者を迎え、別離の宴席で詩文の遊びを開く。たそがれの涼風は蝉は鳴くをやめ、名月の秋空を雁は飛んでいく。菊花を浮かべた酒杯を傾け、遠く帰りゆく客の旅愁を慰めよう。