白𣑥之 袖指可倍弖 靡寐 吾黑髪乃 眞白髪尒 成極 新世尒 共將有跡 玉緒乃 不絶射妹跡 結而石 事者不果 思有之 心者不遂 白妙之 手本矣別 丹杵火尒之 家從裳出而 綠兒乃 哭乎毛置而 朝霧 髪髴爲乍 山代乃 相樂山乃 山際 徃過奴礼婆 將云爲便 將爲便不知 吾妹子跡 左宿之妻屋尒 朝庭 出立偲 夕尒波 入居嘆會 腋挟 兒乃泣毎 雄自毛能 負見抱見 朝鳥之 啼耳哭管 雖戀 効矣無跡 辭不問 物尒波在跡 吾妹子之 入尒之山乎 ■(口の中にコ)鹿跡叙念
白たへの 袖さしかへて 靡きねし 吾が黑髪の ま白髪に 成りなむきはみ 新世に 共に在らむと 玉の緒の 絶えじい妹と 結びてし 言は果さず 思へりし 心は遂げず 白たへの たもとを別れ にきびにし 家ゆも出でて みどり兒の 泣くをもおきて 朝霧の おほになりつつ 山城の 相樂山の 山のまに ゆき過ぎぬれば 云はむすべ せむすべ知らに 吾妹子と さ寝し妻屋に 朝には 出で立ち偲び 夕べには 入り居歎かひ 腋ばさむ 子の泣く毎に 男じもの 負ひみ抱きみ 朝鳥の ねのみ泣きつつ 戀ふれども 効を無みと 言問はぬ ものにはあれど 吾妹子が 入りにし山を よすがとぞ思ふ
澤瀉久孝著「万葉集注釈」3より