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白川静
「万葉集」を読み解きたいというところから始まった文学研究が、比較研究のため中国の「詩経」へと進み、様々な解釈に納得がいかず、未解読の原初文字である甲骨文・金文の解読へとのめりこむ。そして、ついには漢時代以降間違って伝えられた字源を解読してしまったのである。
この研究で漢字学界や出版社は大騒動である。何しろ正しいはずの字典の語源が間違いだらけになったのだから大変なことである。常識的には改訂版を出さなくてはならないだろうが、回収不能の厖大な出費となるのでこれらの字典は歴史的資料としてあつかわれるのであろう。
二千年の間多くの学者が挑んだ仕事である。そのすべての人が読み解けなかった文字が口である。こんな簡単なものが何故だろうと思うが、口(くち)と読んでしまったから口以外の口の付く字が不明朗な解説になってしまった。口と読む字もあるが多くは口(さい)と白川が名付けた祝詞を入れる器のことで、吉・古・舎・器・兄のように口のつく字の語源を「字統」と他の字源字典と比べてみると、白川の仕事がよく理解できるだろう。
とにかく「字統」は面白い。漢字はこんなに解かりやすかったのか、と教えられた。山や川が象形文字とは知っていたが、解の字が角と刀と牛からなり刀で牛の角を切り取る様子を表わしているのである。このように殷の時代に作られた文字は多くが象形文字だったのである。
これまでの語源字典は読んでもよく意味がわからないことが多かった。甲骨や金文で制作しようと思っても、何故こんな形になるのか理解しないままただ形だけを真似るのでは、どんなに面白い形でも前へ進む意欲がわかなかった。解読された今、これまでの上質な書を残してきた偉人達とは、文字に関する頭の内容がまったく違う書家が現れてくるだろう。そうなると歴史に新しいページを足して行けるかもしれない。
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by mteisi | 2008-08-15 10:41 | 語源で遊ぶ


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