カテゴリ:懐風藻( 115 )
懐風藻116
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月夜坐河浜
 正五位下中宮少輔葛井連広成

雲飛低玉柯 月上動金波 落照曹王苑 流光織女河

月夜河浜に坐す
 
雲飛んで玉柯に低れ 月上って金波を動かす 落照曹王の苑 流光織女の河

雲は浮き流れて木の枝に低くかかり、月は上って水の面にきらめいている。夕日のかげりに曹植の西園をしのび、かがやく月光に織女の慕情をえがく。
by mteisi | 2013-05-28 08:13 | 懐風藻
懐風藻115
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奉和藤太政佳野之作
 正五位下中宮少輔葛井連広成

物外囂塵遠 山中幽隠親 笛浦棲丹鳳 琴淵躍錦鱗
月後楓声落 風前松響陳 開仁対山路 猟智賞河津

奉和藤太政佳野之作
 
物外囂塵遠く 山中幽隠親し 笛浦丹鳳を棲ましめ 琴淵錦鱗を躍らしめる
月後楓声落ち 風前松響陳ぶ 仁を開いて山路に対し 智を猟して河津を賞す

世事を忘れんと俗塵から遠く離れて、吉野の山あいにひそかに生活している。ここ吉野川の水辺には鳳凰が棲みなれ、淵の群魚は時折り錦鱗魚紋を描き出す。月は山の端にかくれ楓には風音もなく、時おり松吹く音をかすかに聞くばかり。山のふところに入ろうと山路をたどり、川の妙趣にひたろうと岸辺を逍遙する。
by mteisi | 2013-05-27 08:01 | 懐風藻
懐風藻114
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秋夜閨情
 従三位中納言兼中務卿石上朝臣乙麻呂

他郷頻夜夢 談与麗人同 寝裏歓如実 驚前恨泣空
空思向桂影 独坐聴松風 山川嶮易路 展転憶閨中

秋夜の閨情
 
他郷しきりに夜夢む 談ずること麗人と同(とも)にす 寝裏歓び実のごとく 驚前恨んで空に泣く
空しく思ひて桂影に向ひ ひとり坐して松風を聴く 山川嶮易の路 展転そて閨中を憶ふ

異郷にいてしきりに夢をみる。美人と楽しそうに語っているさまを。睦みあい歓びにひたっていたものの、ふと目醒めはかない夢と恨み泣く。空しく物さびしく月影を仰ぎ、ひとり坐して松風に耳をすます。遠く離れた山間の住居で、愛人を思って寝返りをうつばかり。
by mteisi | 2013-05-26 07:47 | 懐風藻
懐風藻113
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贈旧識
 従三位中納言兼中務卿石上朝臣乙麻呂

万里風塵別 三冬蘭蕙衰 霜花逾入鬢 寒気益顰眉
夕鴛迷霧裏 暁雁苦雲垂 開衿期不識 呑恨独傷悲

旧識に贈る
 
万里風塵別なり 三冬蘭蕙衰ふ 霜花いよいよ鬢に入り 寒気ますます眉を顰む
夕鴛霧裏に迷ひ 暁雁雲の垂るることを苦しむ 衿を開いて期すれど識らず 恨を呑んでひとり傷悲す

都を遠くはなれてそれぞれの生活、季冬香草もしぼんでさびしい。鬢には白毛がふえ、寒気は凌ぎにくくなっている。夕もやの池に鴛鴦は遠く行き迷い、明け方の雲に雁金は飛びなずむ。胸を開いて語ろうにも心中を知る友はいない。恨みをのんびりひとり傷み悲しむばかりである。
by mteisi | 2013-05-25 07:43 | 懐風藻
懐風藻112
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贈壕公之遷任入京
 従三位中納言兼中務卿石上朝臣乙麻呂

余含南裔怨 君詠北征詩 詩興哀秋節 傷哉槐樹衰
弾琴顧落景 歩月誰逢稀 相望・・・以下脱字 天垂別 分後莫長違

壕公の任に遷り京に入るに贈る
 
余は含む南裔の怨 君は詠ず北征の詩 詩興秋節に哀しむ 傷ましいかな槐樹の衰へたること
琴を弾じて落景を顧み 月に歩んでたれか逢ふことまれなる 相望んで天垂に別れ 分れて後、長く違ふことなかれ

わたしは南方の辺地をさすらう不運をかこち、君は帰京の詩を口ずさんで都に帰っていく。秋の季節の哀愁は詩情を催させるが、痛ましいことに槐はすっかり衰えてしまった。琴をかなでて夕日の景に見入り、月光にぬれて友を思いながら遠く離れているが、友情を損なうことのないようにありたいものだ。
by mteisi | 2013-05-23 08:36 | 懐風藻
懐風藻111
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飄寓南荒、贈在京故友
 従三位中納言兼中務卿石上朝臣乙麻呂

遼夐遊千里 徘徊惜寸心 風前蘭送馥 月後桂舒陰
斜雁凌雲響 軽蝉抱樹吟 相思知別働 徒弄白雲琴

南荒に飄寓して京に在る故友に贈る

遼夐千里に遊び 徘徊寸心を惜しむ 風前蘭馥を送り 月後桂陰を舒ぶ
斜雁雲を凌いで響き 軽蝉樹を抱いて吟ず 相思別っれの働(かなし)みを知り 徒(ただ)に弄す白雲の琴

遙か離れた南方の辺土に住み、さまよい歩いてはわが心をいとおしむ。蘭は芳香を風のまにまにくゆらせ、桂は月に照らされて地に蔭を曳く。雲間に雁が鳴きかわし、相思の情は別離の涯(はたて)に耐えきれない。ただ白雲に向って琴をひくばかりだ。
by mteisi | 2013-05-22 08:07 | 懐風藻
懐風藻110
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我所思兮在無漏
 釈道融

我所思兮在無漏 欲往従兮貪瞋 路険易兮在由己 壮士去兮不復還

わが思ふところは無漏にあり
 
わが思ふところは無漏にあり 往いて従はんとほっして貪瞋かたし 路の険易は己に由るにあり 壮士去ってまた還らず

わたしの志は煩悩を解脱するところにある。修行に務めたい思うが欲望は絶ちがたい。路の難易はただ自分の志如何によるもので、決心し踏み入った以上中途でやめやしない。
by mteisi | 2013-05-21 08:13 | 懐風藻
懐風藻109
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独坐山中
 隠士民黒人

烟霧辞塵俗 山川壮処居 此時能莫賦 風月自軽余

独坐山中
 
烟霧塵俗を辞し 山川処居を壮にす この時よくすることなくんば 風月おのづから余を軽んぜん

煩わしい世俗を離れて雲霧の靡く山に入れば、山は住居としていよいよ心を壮にしてくれる。この自然の中にいてよい詩ができないならば、風月はわたしを無風流な者とあなどるだろう。
by mteisi | 2013-05-20 08:09 | 懐風藻
懐風藻108
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幽棲
 隠士民黒人

試出囂塵処 追尋仙桂叢 巌谿無俗事 山路有樵童
泉石行々異 風烟処々同 欲知山人楽 松下有清風

幽棲
 
試みに囂塵の処を出でて 仙桂の叢を追尋す 巌谿俗事なく 山路樵童あり
泉石行々異り 風烟処々同じ 山人の楽しみを知らんと欲せば 松下清風あり

たまたまかしましい俗世を脱れ出、桂の茂る幽棲の地を探し求めえた。深い谷間には世俗の煩いなく、山路では木樵の子供にあうぐらい。泉や岩は一歩ごとに景色が変わるが。風や露はどこも変わらぬ趣がある。山に住む人の楽しみを問うのなら、まつの下枝(しずえ)に吹く清風というだけだ。
by mteisi | 2013-05-19 08:12 | 懐風藻
懐風藻107
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賀五八年宴
 従五位上上総守伊支連古麻呂

万秋長貴戚 五八表遐年 真率無前後 鳴求一愚賢
令節調黄地 寒風変碧天 已応螽斯徴 何須顧太玄

五八の年を賀する宴
 
万秋貴戚に長じ 五八遐年を表わす 真率前後なく 鳴求愚賢を一にす
令節黄地を調べ 寒風碧天に変ず すでに螽斯の徴に応ず なんぞ須ゐん太玄を顧みるを

万世までも栄える高貴な家に成長され、ここに四十の長寿のお祝いを申し上げる。貴賤を問わず、ひとしく迎え入れられ、賢愚ともども、慕い集まって群れをなす。今日のよき日に大地は気候をととのえ、寒風も平穏であり子孫は繁栄している。なんで太玄経などふり返る要があろう。
by mteisi | 2013-05-18 08:27 | 懐風藻