
am6:10
今日もグレー。
五条のきさいの宮のにしのたいにすみける人に、
ほいにはあらでものいひわたりけるを、
む月のとをかあまりになむ、
ほかへかくれける。
あり所はききけれど、え物もいわで、
又のとしのはる、むめの花ざかりに、
月のおもしろかりける夜、こぞひて、
かのにしのたいにいきて、
月のかたぶくまで、
あばらなるいたじきにふせてよめる。
在原業平朝臣
月やあらぬ春や昔の春ならぬ
わが身ひとつはもとの身にして
五条の后の御殿の西の対屋(たいのや)に住んでいた女性に、
公然とではなく通い続けていたが、どうしたことか、
正月の十日過ぎに他所に隠れてしまった。
女性の居所は聞いていたけれど、便りすることもできないで、
明くる年の春、梅の花盛りで、月景色が美しかった夜、
去年のことを恋しく思って、あの西の対屋に行って、
月が西に傾くまで、荒れはてていた板敷にふせっていて詠んだ歌。
この月は昔の月と違うのであるか、否、昔のままである。
この春は昔のままの春である。
そして、私一人だけは昔のままの身であって
今年は相手の女性がいないのがまことに遺憾である。