
春苑応詔
従三位左大弁石川朝臣石足
聖衿愛良節 仁趣動芳春 素庭満英才 紫閣引雅人
水清瑤池深 花開禁苑新 戯鳥随波散 仙舟逐石巡
舞袖留翔鶴 歌声落梁塵 今日足忘徳 勿言唐帝民
春苑詔に応ず
聖衿良節を愛し 仁趣芳春に動かす 素庭英才に満ち 紫閣雅人を引く
水清くして瑤池深く 花開いて禁苑新たなり 戯鳥波に随うて散じ 仙舟石を逐うて巡る
舞袖翔鶴を留め 歌声梁塵を落す 今日徳を忘るるに足れり 言ふことなかれ唐帝の民と
天子は春のよい時候を愛され、仁慈のみ心で宴をお開きになった。御苑には俊英な士が集まり、宮殿には風雅な士を召されている。水は清く苑池は深い。花はほころび禁地の緑はみずみずしい。戯れていた鳥は波のまにまに飛び去り、天子の船はゆるやかに水際の石にそって巡る。うるわしい歌声には梁の塵も舞い上がる。尭帝の徳もはや意識の外である。尭帝の民など同一に論ぜられるものではない。