
am7:09
肌寒くうすい空。
七条のきさきうせたまひにけるのちによめる
伊勢
おきつなみ あれのみまさる 宮のうちは としへてすみし
いせのあまも 舟ながしたる 心地して よらむ方なく
かなしきに 淚の色の くれなゐは 我らがなかの
時雨にて 秋のもみぢと 人々は おのがちりぢり
わかれなば たのむかげなく なりはてて とまる物とは
花すすき きみなき庭に むれたちて そらをまねかば
はつかりの なき渡りつつ よそにこそ見め
いよいよ荒れてゆくこの御殿の中には、長い年月の間住んでいた伊勢のあま(私)も、頼りにしていた舟を流し失ったような気がし、身を寄せようと思うところもなく悲しいので、流す涙もつきて、紅の淚とあっているのは、悲嘆に暮れて私どもが流す涙の時雨であり、秋の紅葉の散るように、人々がそれぞれ散り散りに別れてしまうならば、頼むよすがもすっかりなくなってしまい、ただ、あとに残りとどまるものとしては花すすきだけが、主人のいなくなった庭に群がり立つばかりで、空に向かってまねくならば、たまたま飛び行く初雁が、よそながらこの御殿をながめるであろうか(他にはよそながでも見る人もなくなってしまうであろう)。