扈従吉野宮
大宰大弐正四位下紀朝臣男人
鳳蓋停南岳 追尋智与仁 嘯谷将孫語 擧藤共許親
峯巌夏景変 泉石秋光新 此地仙霊宅 何須胡射倫
吉野宮に扈従す
鳳蓋南岳に停り 追尋す智と仁と 谷に嘯ぶいて孫と語り 藤に擧ぢて許と親しむ
峯巌夏景変じ 泉石秋光新たなり この地仙霊の宅 なんぞ須ゐん胡射の倫
天子の乗り物は吉野にとどまり、山水の趣きを尋ね求める。谷間に口ずさんでは文士と語り、山を擧じては詩文をひねる。峯や巌に夏の面影がうすれ、泉や石には秋の気配が新鮮である。この地は神仙の棲むところ、なんで藐胡射に仙人を訪う必要があろうか。