初春於左僕射長王宅讌
正六位上但馬守百済公和麻呂
帝里浮春色 上林開景華 芳梅含雪散 嫩柳帯風斜
庭燠将滋草 林寒未笑花 鶉衣追野坐 鶴蓋入山家
芳舎塵思寂 拙場風響譁 琴樽興未已 誰載習池車
初春左僕射長王の宅において讌す
帝里春色を浮べ 上林景華を開く 芳梅雪を含んで散じ 嫩柳風を帯びて斜なり
庭燠かにしてまさに草滋らんとし 林寒うしていまだ花笑かず 鶉衣野坐を追い 鶴蓋山家に入る
芳舎塵思寂かに 拙場風響譁すし 琴樽興いまだやまず たれか習池の車を載せん
都は春の景色名なり、御苑に花が咲き乱れる。清香の梅は雪とともに散り、若葉の柳は風にもまれてなびいている。春の光に庭の草も萌え出でようとし、林の中にはまだ寒く花は咲かない。敝衣の賤者は野掛けを楽しみ、乗車の貴人は別荘に入っていく。この邸宅では俗念は消え去り、詩の席上は風流韻事で賑わっている。琴と酒との感興は尽きない。酔いつぶれて帰るものはまだいない。