
秋日於長王宅宴新羅客
贈正一位左大臣藤原朝臣総前
職貢梯航使 従此及三韓 岐路分衿易 琴樽促膝難
山中猿吟断 葉裏蝉音寒 贈別無言語 愁情幾万端
秋日長王の宅において新羅の客を宴す
職貢梯航の使 これより三韓に及ぶ 岐路衿を分つことやすく 琴樽膝を促むことかたし
山中猿吟断え 葉裏蝉音寒し 別に贈るに言語なし 愁情いく万端ぞ
貢物をもって新羅の使いが海山を越えてきた。その使いが今三韓に帰っていく。別離の袂をわかつ時は来やすく、琴や酒で心を開いて語る時は期しがたい。山の中では猿の鳴き叫ぶ声もたえ、葉のかげて鳴く蝉もうそ寒い感じだ。別れに当たってのことば、何ともいいようがない。ただ悲しみの情がこみあげてくるばかりだ