懐風藻105
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和藤江守詠裨叡山先考之旧禅処柳樹之作
 外従五位下石見守麻田連陽春

近江惟帝里 裨叡寔神山 山静俗塵寂 谷間真理専
於穆我先考 独悟闡芳緣 宝殿臨空構 梵鐘入風伝
烟雲万古色 松柏九冬堅 日月荏苒去 慈範独依々
寂寞精禅処 俄為積草ヂ 古樹三秋落 寒花九月衰
唯餘両陽樹 孝鳥朝夕悲

藤江守詠裨叡山先考の旧禅処の柳樹を詠ずるの作に和す
 
近江これは帝里 裨叡はまこと神山なり 山静かにして俗塵寂とし 谷間にして真理専らなり
ああ穆たるわが先考 ひとり悟って芳緣を闡く 宝殿空に臨んで構へ 梵鐘風に入って伝ふ
烟雲万古の色 松柏九冬堅し 日月荏苒として去り 慈範独り依々たり
寂寞たる精禅の処 俄かに積草のヂとなる 古樹三秋落ち 寒花九月衰ふ
ただ餘す両陽樹 孝鳥朝夕悲しむ

近江は帝都であり、比叡は神の住む山。山は静かで俗塵から離れ、谷は閑かで仏の道理が漲っている。ああ、私の亡父は、ここで悟って仏縁を開かれた。仏殿は空高く聳え、大鐘は風のまにまに響いてくる。もやや霞は太古の色そのまま、松や柏は三月の冬にも色あせない。月日はむなしく過ぎ去っていくが、亡父のあたたかき教えは昔のままだ。寂しく静かな禅の道場も、俄に雑草の茂る庭となった。古木は秋にあって落葉し、後れ咲きの花はしおれてわびいしい。ただ二本の楊の樹だけが空しく立ち、鳥が朝に夕に悲しく鳴くばかりである。
by mteisi | 2013-05-16 08:40 | 懐風藻


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