與史郎中欽聽黄鶴樓上吹笛
李白
一爲遷客去長沙 西望長安不見家 黄鶴樓中吹玉笛 江城五月落梅花
史郎中欽と黄鶴樓上笛を吹くを聽く
李白 りはく
一たび遷客と爲って長沙に去る 西のかた長安を望めども家を見ず 黄鶴樓中玉笛を吹く 江城五月落梅花
いよいよ遠い夜郎へ流罪の身となって、これから長沙へ向かって出発することになった。長安の方角を眺めても、家など見えるはずがない。のれからは、またいっそう遠くへ離れてゆく。黄鶴樓の上で、おもいに沈んでいると、樓中で笛を吹いているものがある。じっと耳をすまして聞いていると、たしかに落梅花の曲だ。この長江にそうた武昌のむし暑い五月というのに、あのつめたい悲しげな、あの別離をいたむしらべよ。