
三之五
世斷乎亂、孰弊弊焉爲天下爲事、之人也、物莫之傷、大浸、稽天而不溺、大旱、金石流土山焦而不熱、昰其塵垢粃■(禾康)、將猶陶鑄堯舜者也、孰肯以物爲而、
世は亂(おさまる)を斷(もと)むるも、孰(たれ)か弊弊焉(へいへいえん)として天下を以て事を爲さんや、之の人や、物これを傷(そこな)うことなし。大浸、天に稽(いた)るとも溺れず、大旱、金石流れ土山焦(や)くとも熱しとせず。昰れ其の塵垢粃コウも、將に猶お堯舜を陶鑄せんとする者なり。孰(たれ)か肯(あ)えて以て物を事と爲さんや。
世間の人々が平和を願うからといって、天下のために苦労をして勤めるようなことをどうしてしようか。この人は、下界の事物によって害されることもない。大水がでて天にとどくほどになっても溺れることがなく、大干魃で金属や岩石が溶け流れ大地や山肌が焦げるほどになっても熱さを感じない。これは、その身についた塵や垢のような糟でさえ、[それを集めて]聖人といわれる堯や舜を作り、出すことができるほどの人物である。外界の事物のためにして勤めるようなことをどうしてしようか。