一之十三
夫小惑易方、大惑易性、何以知其然邪、自虞氏招仁義以撓天下也、天下莫不奔命於仁義、是非以仁義易其性與、故嘗試論之、
夫れ小惑は方を易し、大惑は性を易す。何を以て其の然るを知るや。虞氏、仁義を招げて以て天下を撓りしより、天下は仁義に奔命せざること莫し。是れ仁義を以て其の性を易すに非ずや。故に嘗試みにこれを論ぜん。
そもそも小さな迷いでは進む方向をまちがえるだけだが、大きな迷いでは自分の本来のうまれつきをとり違えてしまう。どうしてそのことが分かるのか。有虞氏の舜が仁義をかかげてそれで、世界をかき乱してからというもの、世界中の人々はみは仁義のためにかけまわっている。これこそ仁義によって自分の自然な生まれつきをとり違えたものではないか。