
陟岵
陟彼岵兮 瞻望父兮 彼の岵に陟りて 父を瞻望す
父曰嗟予子 行役夙夜無已 父は曰わん 嗟 予が子 役に行きて夙夜已むこと無けん
上愼旃哉 猶來無止 上は旃を愼しめや 猶ほ來れ 止まること無かれ
あの岩山の高い処にのぼって はるかに父のかたをながめる
父は言っておられるであろう あわれ 我が子よ
軍役に行くからには 明け暮れ奉公せよ どうか大事にして 無事に帰っておくれ
よくいつまでも止まって帰らぬことのないように
陟彼屺兮 瞻望母兮 彼の岵に陟りて 母を瞻望す
父曰嗟予季 行役夙夜無寐 母は曰わん 嗟 予が季 役に行きて夙夜寐ぬこと無からん
上愼旃哉 猶來無棄 上は旃を愼しめや 猶ほ來れ 棄つること無かれ
あの岩山の高い処にのぼって はるかに母の在す方をながめる
おかあさんはいっているであろう あわれ 吾が子よ
戦に出てぐっすり寝るひまもあるまい どうか万事に気をつけておくれ
生還しておくれ わたしを棄ててくれるな
陟彼岡兮 瞻望兄兮 彼の岵に陟りて 兄を瞻望す
兄曰嗟予弟 行役夙夜必偕 兄は曰わん 嗟 予が弟 役に行きて夙夜必ず偕にせよ
上愼旃哉 猶來無死 上は旃を愼しめや 猶ほ來れ 死すること無かれと
あの岡にのぼって 兄の居る方をながめる
兄は言うであろう あわれ 我が弟よ
戦に出て明け暮れ同役と共に励め 万事に気をつけて
無事に帰ってきておくれ 死んでくれるなと